東京高等裁判所 平成6年(行ケ)87号 判決 1995年9月07日
大阪府守口市京阪本通2丁目5番5号
原告
三洋電機株式会社
同代表者代表取締役
高野泰明
鳥取県鳥取市南吉方3丁目201番地
原告
鳥取三洋電機株式会社
同代表者代表取締役
米山幸太郎
原告ら訴訟代理人弁理士
山本明良
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
同指定代理人
菅野嘉昭
同
今野朗
同
関口博
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
「特許庁が平成3年審判第20061号事件について平成6年3月2日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和61年11月11日、名称を「コードレス電話装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和61年特許願第268037号)したが、平成3年8月16日拒絶査定を受けたので、同年10月17日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第20061号事件として審理した結果、平成6年3月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同月29日原告らに送達された。
2 本願発明の要旨
パルスダイヤルとトーンダイヤルの発信回路を有し、電話回線に接続される親機と、該親機と無線で結ばれた子機よりなるコードレス電話装置において、子機に、ダイヤル番号を入力するキー及びダイヤルモードを切換えるモード切換えキーと、前記夫々のキーの操作に応じてダイヤル番号信号、切換制御信号を発生する手段とを設け、且つ前記親機に、予め一方のダイヤルモードに優先性を定める手段と、回線接続後、切換制御信号を受信することなくダイヤル番号信号を受信すると常に優先性を定めた一方のダイヤルモードにてダイヤル発信を行い、切換制御信号の受信後にダイヤル番号信号を受信すると他方のダイヤルモードにてダイヤル発信を行うよう前記発信回路を制御する制御手段を設けたことを特徴とするコードレス電話装置。(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) これに対して、特開昭61-74428号公報(昭和61年4月16日出願公開。以下「第1引用例」という。)には、本願発明に準ずると、「パルスダイヤルとトーンダイヤルを発信する第1、第2の発信手段を有し、電話回線に接続される親局と、該親局と無線で結ばれた子局よりなるコードレス電話機において、子局に、ダイヤル番号を入力するキー及びダイヤルモードを切換える選択スイッチと、前記夫々のキー又はスイッチの操作に応じてダイヤル番号信号、切換制御信号を発生する第2演算制御手段とを設け、且つ前記親局に、回線接続後、前記切換制御信号の受信により、前記発信手段のダイヤル番号信号を一方のダイヤルモードと他方のダイヤルモードとに切換制御する第1演算制御手段を設けたことを特徴とするコードレス電話機。」が記載されている。(別紙図面2参照)
また、特開昭59-185455号公報(昭和59年10月22日出願公開。以下「第2引用例」という。)には、「使用回線が回転ダイヤル回線かプッシュダイヤル回線かを指定するための回線指定切替スイッチと、この回線指定切替スイッチの指定により回転ダイヤル信号送出回路、プッシュダイヤル信号送出回路のいずれか一方を動作状態にし、上記いずれか一方のダイヤル信号送出回路よりキーボードの操作に応じたダイヤル信号を送出する手段と、通話時に上記キーボードによって予め定められた特殊ダイヤル操作をすることにより上記指定されたダイヤル信号送出回路以外の他のダイヤル信号送出回路よりキーボードの操作に応じたダイヤル信号を送出する手段を備えて成る電話機。」(特許請求の範囲)が記載されている。更に、その実施例の説明欄(図面及び明細書3頁左上欄~右上欄)には「電話機を回転ダイヤル回線に接続(回線指定切替スイッチにより指定)した場合、回転ダイヤル送出、特殊ダイヤル操作、プッシュダイヤル送出動作により通話可能とされるが、一度終話すると、リセットされ、発信時は、再び回転ダイヤル信号が送信される状態になる。」旨記載されている。
(3) そこで、本願発明(以下「前者」という。)と第1引用例に記載されたもの(以下「後者」という。)とを比較すると、両者は、「パルスダイヤルとトーンダイヤルの発信回路(第1、第2のダイヤル発信手段)を有し、電話回線に接続される親機(親局)と、該親機と無線で結ばれた子機(子局)よりなるコードレス電話装置(電話機)において、子機に、ダイヤル番号を入力するキー及びダイヤルモードを切換えるモード切換えキー(選択スイッチ)と、前記夫々のキー(又はスイッチ)の操作に応じてダイヤル番号信号、切換制御信号を発生する手段(第2演算制御手段)とを設け、且つ前記親局に、回線接続後、前記切換制御信号の受信により、前記発信回路のダイヤル発信を一方のダイヤルモードと他方のダイヤルモードとに切換制御する制御手段(第1演算制御手段)を設けたことを特徴とするコードレス電話装置。」の点で一致し、前者は、親機に、予め一方のダイヤルモードに優先性を定めて、常に該一方のダイヤルモードにて発信を行うように構成し、回線接続後の(優先モードの)切換制御信号を不要とするのに対して、後者には、優先性がない点で相違するが、その余の構成には実質上の差異は認められない。
(4) 上記相違点について検討する。
<1> 第2引用例に記載されるように、使用回線が回転(パルス)ダイヤル(式)の電話回線かプッシュ(トーン)ダイヤル(式)の電話回線かによって、電話回線に接続される電話機のダイヤルモードは自動的に決められる(指定される)もので、常時使用回線モードで動作するように設定(優先的にモードを設定)されることは、普通に行われていることであるばかりでなく、ダイヤルモード切換手段を設けて使用回線モード(通常モード)以外の特殊モードで使用する場合には、その特殊モードによる使用後は、通常モードに自動的に戻し(リセットし)て、次の通常モードの通話待機状態となすことは、常套手段{特開昭61-247150号公報、実願昭58-173214号(実開昭60-79864号公報)のマイクロフィルム参照}であることから、<2>ダイヤルモード切換手段を有する親機と子機からなる後者のようなコードレス電話機においても、使用回線に接続される親局(親機)を、上記のようにリセットさせる構成(優先性の構成)となすことは、必要に応じて適宜なし得る程度のことと認められる。そして、その場合、親機が使用回線モードにリセットされることから、子機が該モードにするための切換制御信号を送る必要性がないことは自明のことであり、この相違点で格別の発明力を要したものとは認められない。
(5) したがって、本願発明は、前記各引用例に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)の本願発明と第1引用例記載のものとの一致点の認定のうち、「ダイヤルモードを切換えるモード切換えキー(選択スイッチ)」の部分は争い、その余の一致点の認定、及び相違点の認定は認める。同(4)<1>は認めるが、同(4)<2>は争う。同(5)は争う。
審決は、本願発明と第1引用例記載のものとの一致点の認定及び相違点の判断をいずれも誤り、かつ、本願発明の奏する顕著な効果を看過して、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 一致点の認定の誤り(取消事由1)
審決は、本願発明の子機に設けられている「ダイヤルモードを切換えるモード切換えキー」と、第1引用例記載の「選択スイッチ」は一致(相当)するものと認定しているが、誤りである。
本願発明における子機の「モード切換えキー」は、子機からダイヤルモードを切換える機能と、積極的にダイヤルモード状態をその操作状態で表示しない機能という2つの機能を有し、特に、後者の機能により、親機側と子機側のダイヤルモードの食い違いを防止するというコードレス電話装置特有の効果を奏することができるのである。
これに対し、第1引用例(甲第6号証)中の「本実施例で子局ではスライドスイッチで、また親局ではキーでダイヤル発信形式を選択できるようにしたのは、子局は表示器を有しておらず、スライドスイッチの位置で視覚的にこの切換えを確認できるようにし、親局ではダイヤル発信形式の選択状態は表示器(12)を用いて行えるよう考慮したためである。」(3頁左上欄14行ないし20行)との記載から明らかなように、第1引用例記載のものにおいては、ダイヤルモードを切換えるため、子局には視覚的に設定位置を確認できる「スライドスイッチ」を「選択スイッチ」として設け、視覚的に設定位置を確認できない「キー」は設けていないのである。つまり、第1引用例における「選択スイッチ」は、設定位置(パルスダイヤル位置又はトーンダイヤル位置)が視覚的に確認できるものであり、本願発明の「モード切換えキー」のように操作後は元の状態に復帰し、上記設定位置を視覚的に確認できないものとは明らかに異なるのである。
したがって、ダイヤルモードを切換える機能を有することのみから、本願発明の「モード切換えキー」と第1引用例の「選択スイッチ」が一致(相当)するとした審決の認定は誤りである。
(2) 相違点の判断の誤り(取消事由2)
<1> コードレス電話装置にあっては、親機と子機間は無線で接続される。この無線は、有線に比べて外的影響で送信する信号が変化しやすく、一方から他方に対して動作の指令を伝えるための制御信号の送受信は少なくした方が、装置の誤動作を避けることができる。したがって、コードレス電話装置において、如何に制御信号の送受信を少なくするかは、非常に重要な事項なのである。
本願発明は、このような背景において、「優先性の構成」をコードレス電話装置に設けたときに、ダイヤルモードの切換えを指示する切換制御信号の送受信を減らすという目的のもと、この「優先性の構成」を親機に設け、「通話開始時等に子機側からパルス或いはトーンを指定する必要がない」というコードレス電話装置特有の効果を奏するようにしたのである。
しかるに審決は、本願発明の上記特有の効果について何ら顧慮することなく、第1引用例のようなコードレス電話装置においても、親機をリセットさせる構成(優先性の構成)となすことは、必要に応じて適宜なし得る程度のことであると誤って判断したものである。
<2> 被告は、親機が通常の電話機の機能を有することをもって、「リセットさせる構成(優先性の構成)」を親機に設けることが容易であると主張しているが、子機にあっても回線接続要求操作、回線切断要求操作の検出等の通常の電話機の機能を有するのであるから、被告の主張は何ら根拠のないものである。
そして、第1引用例の親局は、一連のダイヤル発信する前に、その一連のダイヤル発信をパルスとトーンのどちらのモードで行うかの指示を子局から受け、その後の子局からのダイヤル信号をその指示されたダイヤルモードに基づきダイヤル発信するのである。したがって、第1引用例の親局にあっては、まず子局から選択情報の受信をした後でないと、子局からダイヤル信号を受信してもダイヤル発信できないことになる。
上記のとおり、第1引用例のようなコードレス電話装置にあっては、子局からの選択情報の送信が必須の構成である以上、リセットさせる構成(優先性の構成)は子局に設け、通話開始時には優先モードの選択情報を親機に送信するよう構成する必要があるのであって、優先性の構成を親機に設ける方が容易に想到し得ることであるとする被告の主張は理由がない。
(3) 顕著な効果の看過(取消事由3)
本願発明は、親機側に「優先性の構成」を設ける構成と、子機側に「モード切換えキー」を設ける構成が一体となって、「通話開始時等に子機側からパルス或いはトーンを指定する信号を送信する必要がなく、しかも、親機側と子機側のダイヤルモードの食い違いを防止することができる。」という効果を奏するものであるが、これらの効果は、第1引用例及び第2引用例からは予期し得ない顕著なものである。
しかるに審決は、本願発明の上記顕著な効果を看過したものである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告ら主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
第1引用例の「選択スイッチ」は、子局(子機)に設けられていて、この選択スイッチの設定状態に応じて、選択情報(パルスダイヤル又はトーンダイヤル)を親局(親機)に送信し、(親局は、該情報により、子局にて操作された電話番号を、パルスダイヤル又はトーンダイヤルで、電話回線に送出するものであり、)かつ、選択スイッチが操作されるときにも、選択情報が親局に送信される(第1引用例5頁左下欄18行ないし右下欄20行)ことから、選択スイッチは、パルスダイヤルかトーンダイヤルかのダイヤルモードを実質上指令するスイッチであることに相違ないものと認められ、その機能において、本願発明における子機の「モード切換えキー」に相当するものである。
審決は、モード切換え機能において、第1引用例の「選択スイッチ」は本願発明の「モード切換えキー」に相当すると認定したものであって、一致点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2について
子機を有するコードレス電話装置においては、子機からのダイヤル(発信)は、通常は、子機からの指令により親機が(親機に設けられているパルス発生回路又はトーン発生回路を選択動作させ)そのダイヤルのパルス又はトーンを、電話回線に送出するものであり、また、子機の通話においても、親機が回線の接続、切断の制御をすることから、ダイヤル開始や通話終了などの回線接続、切断時に回線を通常モードにするための、リセットさせる構成(優先性の構成)は、通常の電話機の機能を有する親機に設けるのが、第2引用例から最も容易に想到し得る考えであると認められる。ただ、コードレス電話装置の場合は、親機ではなく、子機にリセットさせる構成を設けることも、一応想到し得るが、子機に設ける場合は、子機の通話に対するリセットさせる構成以外に、親機の通話に対するリセットさせる構成が必要で、かつ、このリセットは、親機のなす電話回線へのダイヤル送出モードのリセットであることから該親機のリセットさせる構成と同期して制御しなければならなく、構成が複雑化することは、当業者にとって明白なことであり、特段の事情(格別の必要性や格別の効果)がない限り、一般的には子機に設けることはせず、親機に設ける方がより容易に想到し得ることである。
(3) 取消事由3について
通話開始時等に子機側からパルス或いはトーンを指定する信号を送信する必要がないという効果は、本願発明の構成を採用することにより当然期待し得る程度の効果であって、格別のものではない。また、第1引用例の親機は、子機のダイヤル発信の際は、子機からの指令情報を得てからダイヤルするものであることから、親機のモード状態に関わらず、子機の選択モード(指令情報)に従って、ダイヤル発信するものであるから、親機側と子機側のダイヤルモードの食い違いによる誤動作は通常起こり得ず、本願発明の上記誤動作の防止効果も格別のものとはいえない。
第4 証拠
証拠関係は、記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、第1引用例及び第2引用例に審決摘示の技術事項が記載されていること、及び、本願発明と第1引用例記載のものとの相違点が審決認定のとおりであることについても、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告ら主張の審決取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1について
<1> 本願発明と第1引用例記載のものとの一致点は、本願発明における「ダイヤルモードを切換えるモード切換えキー」と第1引用例における「選択スイッチ」が一致(相当)するとした部分を除いて、審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。
<2> 本願発明の特許請求の範囲の記載から明らかなとおり、本願発明における子機の「モード切換えキー」は、子機から親機のダイヤルモードを切換える機能を有するものである。
他方、第1引用例(甲第6号証)には、「本発明は前述の2つの形式のダイヤル発信信号を発生させる回路手段を親局にのみ備え、子局にはこのダイヤル発信形式を指定する入力手段と、電話番号を指定する入力手段を備え、この入力手段の指定によるダイヤル情報を親局に送信し、親局でこの情報に基づき前記2つの形式にてダイヤル発信する構成をとる。」(2頁右上欄9行ないし15行)、「本実施例では電話番号を指定する数字情報と、パルスダイヤル(P)及びトーンダイヤル(T)の情報を別途設け、子局から呼信するため操作切換えスイッチ(9)が操作された時点とに選択スイッチ(7)の設定状態に応じてこの選択情報(P又はT)を親局に送信する。」(5頁左下欄18行ないし右下欄4行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、第1引用例記載のものにおいては、子局(子機)から選択スイッチの選択情報(P又はT)を親局(親機)に送信し、親局はこの情報に従って、子局により操作された電話番号をパルスダイヤル又はトーンダイヤルで電話回線に送出するものであって、選択スイッチは、親局に選択すべきダイヤルモードを指示し、親局のダイヤルモードを切換える機能を有するものであると認められる。
上記のとおり、親機のダイヤルモードを切換える機能を有するものであるという点で、本願発明の「モード切換えキー」と第1引用例の「選択スイッチ」とは、機能上共通するから、両者が一致(相当)するとした審決の認定に誤りはない。
<3> 原告らは、本願発明の「モード切換えキー」には、上記機能とは別に、積極的にダイヤルモード状態をその操作状態で表示しない機能があり、この機能は、親機側と子機側のダイヤルモードの食い違いを防止するというコードレス電話装置特有の効果をもたらすものであるところ、第1引用例の「選択スイッチ」は、設定位置が視覚的に確認できるものであって、本願発明の「モード切換えキー」のように操作後は元の状態に復帰し、設定位置を視覚的に確認できないものとは異なり、上記機能を有しないから、本願発明の「モード切換えキー」と第1引用例の「選択スイッチ」が一致(相当)するとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、本願発明の特許請求の範囲には、モード切換えキーに関して、「ダイヤルモードを切換えるモード切換えキー」と、機能的限定を付して記載されているのであるから、この点を捉えて、同様にダイヤルモ図ドを切換える機能を有する第1引用例の「選択スイッチ」につき、本願発明の「モード切換えキー」に相当するとした審決の認定に誤りがあるとはいえないし、復帰型キーか否かの違いは、相違点に係る構成の想到容易性にも当然関連して取り上げるべき事項であって、一致点の認定に関わる事項ではないから、原告らの上記主張は失当である。
<4> 以上のとおりであるから、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2について
<1> 使用回線が回転(パルス)ダイヤル(式)の電話回線かプッシュ(トーン)ダイヤル(式)の電話回線かによって、電話回線に接続される電話機のダイヤルモードは自動的に決められる(指定される)もので、常時使用回線モードで動作するように設定(優先的にモードを設定)されることは、普通に行われていることであること、ダイヤルモード切換手段を設けて使用回線モード(通常モード)以外の特殊モードで使用する場合には、その特殊モードによる使用後は、通常モードに自動的に戻し(リセットし)て、次の通常モードの通話待機状態となすことは常套手段であることは、当事者間に争いがない。
<2> 上記事実によれば、パルスダイヤル式とトーンダイヤル式の2モード方式を使用し、親局(親機)と子局(子機)からなる第1引用例のコードレス電話装置においてもダイヤルモードをリセットさせる構成(優先性の構成)を設けることが有効であることは容易に予測し得ることと認められる。そして、第1、第2引用例に示されるように、ダイヤルモードの切換えは、電話回線に接続される電話機によって行われるものであること、第2引用例(甲第5号証)には、優先性の構成に基づくダイヤルモードのリセットは、回線切替指定スイッチが指定したモードを記憶したマイクロコンピュータのリセット動作により行われることが示されていること(2頁右下欄3行ないし3頁右上欄7行)からすると、第1引用例のコードレス電話装置において、ダイヤルモードのリセットを、ダイヤルモードの切換制御をする第1演算制御手段を設け、かつ、電話回線に接続されている電話機である親機の側で行うようにすることは、容易に想到し得ることと認めるのが相当である。
そして、親機側にリセットさせる構成が設けられる場合は、通常モードで待機している状態となっているのであるから、子機がそのモードでダイヤルする際には、そのモードにするための切換制御信号を送出する必要がないことは自明のことであり、そのような構成にすることは、親機側にリセットさせる構成を設けることに伴う単なる設計事項にすぎない。
また、ダイヤルモードを指示する信号は、通常モード以外のモードを使用するときのみ送出すればよいのであるから、この信号を発生させるスイッチは、この使用時のみオンとなって信号を送出する復帰型のキーとすればよいことは、上記優先性の構成の採用に伴う単なる設計事項にすぎない。
<3> 原告らは、審決は、本願発明が「優先性の構成」を親機に設け、「通話開始時等に子機側からパルス或いはトーンを指定する必要がない」というコードレス電話装置特有の効果を奏するようにした点について顧慮することなく、第1引用例のようなコードレス電話装置においても、親機をリセットさせる構成(優先性の構成)となすことは、必要に応じて適宜なし得ることであると誤って判断した旨主張する。
しかし、第1引用例のようなコードレス電話装置において、「優先性の構成」を親機に設けることが容易に想到し得るものであることは、上記説示のとおりであり、「優先性の構成」を親機に設けることによって上記効果を奏することは、当業者において当然予測し得る程度のことであるから、原告らの上記主張は採用できない。
また原告らは、第1引用例のコードレス電話装置にあっては、子局からの選択情報の送信が必須の構成である以上リセットさせる構成(優先性の構成)は子局に設け、通話開始時には優先モードの選択情報を親機に送信するよう構成する必要がある旨主張するが、子局からの選択情報の送信が必須の構成であるからといって、リセットさせる構成を子局に設けることまでが必然的であるということにはならない。そして、第2引用例に記載されているダイヤルモードをリセットさせる構成をコードレス電話装置に適用する場合には、親機ではなく、子機に上記構成を設けることも一応考えられることではあるが、子機に上記構成を設ける場合には、子機をリセットさせる構成以外に親機にもリセットさせる構成が必要で、構成が複雑化することは当業者にとって明白であり、この点からも、上記構成は親機に設ける方がより容易に想到し得ることと認められる。
<4> 以上のとおりであるから、相違点についての審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3について
本願明細書には、「更に、子機側ではモード切換えキーのキー操作により、ダイヤルモード切換えが必要なときのみ切換制御信号を送信するようにし、そして親機側ではパルスダイヤルモードへの予めの設定をなすようにし、且つ回線接続後の切換制御信号の受信の有無で各モードでの発信を制御するようにしており、例えば、通話開始時等に子機側からパルス或いはトーンを指定する信号を送信する必要がなく、しかも、親機側と子機側のダイヤルモードの食い違いを防止することができる。」(甲第4号証4頁10行ないし末行。)と記載されていることが認められる。
ところで、上記「通話開始時等に子機側からパルス或いはトーンを指定する信号を送信する必要がない」という効果は、リセットさせる構成を親機に設けたことにより当然予測できる効果であって(上記構成が容易に想到し得るものであることは、前記説示のとおりである。)、顕著なものとはいえない。
また、前記のとおり、モード切換え機能を有するスイッチを復帰型キーとすることは、優先性の構成の採用に伴う単なる設計事項にすぎないものであるところ、上記「親機側と子機側のダイヤルモードの食い違いを防止することができる」という効果は、モード切換え機能を有するスイッチを復帰型キーとすることにより当然予測し得るものであるから、格別のものということはできない。
したがって、審決に本願発明の効果についての看過はなく、取消事由3は理由がない。
3 以上のとおりであって、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。
よって、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面 1
<省略>
<省略>
別紙図面 2
<省略>